放課後等デイの非常災害対策・避難訓練|消防法・水防法・土砂災害防止法の実務(第40条)
放課後等デイサービス(以下「放デイ」)の非常災害対策(避難訓練)は、児童福祉法の運営基準だけを見ていると回数の定めがなく、「定期的に」としか書かれていません。ところが実際には、消防法令が具体的な回数を定め、事業所の立地によっては水防法・土砂災害防止法という別の法律まで関わってきます。「うちは何回訓練すればいいのか」「消防計画さえあれば十分か」という疑問に、根拠法令ごとに整理して答えます。
なお、本記事は業務継続計画(BCP)の自然災害編(第38条の2)とは別のテーマです。BCPは「災害が起きても支援を止めない・早く再開する」ための計画、本記事の非常災害対策は「災害発生時に命を守る・避難する」ための体制です。両者は関連しますが条文上は別の義務であり、記事の後半でこの違いを整理します。
この記事でわかること
- 指定通所支援基準第40条が求める非常災害対策の中身と、回数が書かれていない理由
- 消防法令が定める放デイの用途区分・防火管理者の選任基準・年2回以上の訓練義務
- 水防法・土砂災害防止法が求める避難確保計画とは何か、どんな放デイが対象になるか
- BCP(自然災害編)と非常災害対策(第40条)の違いと関係
- 放デイ固有の論点(下校時間帯・送迎中の対応)と年間計画・チェックリスト
指定通所支援基準第40条の中身
根拠は「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号。以下「指定通所支援基準」)第40条(非常災害対策)です。放デイは第71条(準用)により、正確には「基準第71条において準用する第40条」が根拠になります。
条文は3項構成です(出典: e-Gov法令検索 指定通所支援基準 第40条)。
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 第1項 | 消火設備その他必要な設備を設け、非常災害に関する具体的計画を立て、関係機関への通報・連絡体制を整備し、従業者に定期的に周知する |
| 第2項 | 非常災害に備え、定期的に避難、救出その他必要な訓練を行う |
| 第3項 | 訓練の実施にあたり、地域住民の参加が得られるよう連携に努める(努力義務) |
こども家庭庁の解釈通知(28)の前にある(30)非常災害対策は、第1項の「非常災害に関する具体的計画」を次のように定義しています。
「非常災害に関する具体的計画」とは、消防法施行規則第3条に規定する消防計画(これに準ずる計画を含む。)及び風水害、地震等の災害に対処するための計画をいう。
つまり第40条でいう「具体的計画」の中身は、消防法令上の消防計画とイコールです。ここから、非常災害対策の実務は消防法令を読まないと具体化できないことがわかります。訓練の回数は指定通所支援基準にも解釈通知にも数値の記載がありません(「定期的に」のみ)。回数を知るには、次章の消防法令を見る必要があります。
消防法令 — 放デイの用途区分・防火管理者・年2回以上の訓練
放デイは消防法施行令別表第一(六)項ハに位置づけられる
消防法施行令(昭和36年政令第37号)の別表第一は、防火対象物を用途ごとに区分しています。放デイは(六)項ハ(4)に位置づけられます(出典: e-Gov法令検索 消防法施行令 別表第一)。
(六)項ハ(4) 児童発達支援センター、児童心理治療施設又は児童福祉法第六条の二の二第二項に規定する児童発達支援若しくは同条第三項に規定する放課後等デイサービスを行う施設(児童発達支援センターを除く)
防火管理者の選任義務(収容人員30人以上)
消防法施行令第1条の2第3項第1号ロは、(六)項イ・ハ・ニ等の防火対象物について、収容人員が30人以上の場合に防火管理者の選任を義務づけています(出典: 同施行令 第1条の2第3項)。放デイ((六)項ハ)は原則この区分に入りますが、テナント入居で複合用途になる場合は建物全体で判断されるなど例外があるため、自事業所が該当するかは所轄消防署に確認してください。
消火訓練・避難訓練は年2回以上、事前通報も必要
防火管理者を選任した事業所には、消防法施行規則第3条第10項・第11項が具体的な訓練義務を課しています(出典: e-Gov法令検索 消防法施行規則 第3条)。
第10項 令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項…に掲げる防火対象物の防火管理者は、消火訓練及び避難訓練を年二回以上実施しなければならない。 第11項 前項の防火管理者は…訓練を実施する場合には、あらかじめ、その旨を消防機関に通報しなければならない。
「(六)項」全体(イ・ロ・ハ・ニ)が対象のため、放デイ((六)項ハ)も含まれます。つまり防火管理者を置く義務のある放デイは、年2回以上の消火・避難訓練+事前の消防機関への通報が明文で義務づけられているということです。指定通所支援基準第40条の「定期的に」を、消防法令が「年2回以上」まで具体化していると理解してください。
水防法・土砂災害防止法 — 避難確保計画とは何か
指定通所支援基準にも消防法令にも出てこない、もう1つの義務があります。水防法と土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)が定める「避難確保計画」です。放デイの立地によっては、これも法定義務になります。
トリガーは「市町村地域防災計画への位置づけ」
水防法第15条の3、土砂災害防止法第8条の2は、いずれもほぼ同じ構造で次のように定めています(出典: e-Gov法令検索 水防法・土砂災害防止法)。
市町村地域防災計画にその名称及び所在地を定められた要配慮者利用施設の所有者又は管理者は、…利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な訓練その他の措置に関する計画を作成しなければならない。
「要配慮者利用施設」は「社会福祉施設、学校、医療施設その他の主として防災上の配慮を要する者が利用する施設」と定義されており、放デイもこれに該当し得ます。ただし義務が発生するのは、事業所が浸水想定区域・土砂災害警戒区域等に立地し、かつ市町村地域防災計画に名称・所在地を「定められた」場合に限られます。すべての放デイに一律に課される義務ではなく、ハザードマップと市町村の地域防災計画で自事業所が該当するかどうかをまず確認することが出発点です。
該当した場合にやるべきこと
該当する場合、水防法・土砂災害防止法とも共通して次の流れが求められます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| ① 計画作成 | 避難確保計画(訓練その他の措置に関する計画)を作成する |
| ② 報告 | 作成後、遅滞なく市町村長に報告する(変更時も同様) |
| ③ 訓練実施 | 計画に基づき避難訓練を実施する |
| ④ 結果報告 | 訓練の結果を市町村長に報告する |
| (努力義務) | 自衛水防組織を置くよう努める |
未作成の場合、市町村長は必要な指示ができ、正当な理由なく指示に従わなければその旨を公表できるとされています。過料・罰金の規定は、本記事で確認した条文の範囲(水防法第15条の3、土砂災害防止法第8条の2)には見当たりませんでした。
注意: 洪水(水防法)と土砂災害(土砂災害防止法)は別の法律・別の計画です。両方の警戒区域等に該当する立地の場合、それぞれ別個に計画を作成・報告する必要があると考えられますが、一体化した1つの計画で両方を兼ねてよいかどうかは、一次情報で明確な言及を確認できませんでした。該当する場合は市町村の防災担当部署に運用を確認してください。
BCP(自然災害編)との違い
第40条の非常災害対策と、BCP(業務継続計画)の自然災害編は、どちらも「地震・水害への備え」を扱うため混同されがちです。整理すると次のようになります。
| 観点 | 非常災害対策(第40条) | BCP自然災害編(第38条の2) |
|---|---|---|
| 目的 | 災害発生時に命を守る(避難・救出) | 災害後も支援を止めない・早く再開する(業務継続) |
| 中心となる文書 | 消防計画(消防法施行規則第3条) | 業務継続計画(厚労省ひな形) |
| 訓練の回数 | 消防法令上年2回以上(防火管理者選任事業所) | 解釈通知上年1回以上 |
| 対象となる事象 | 火災・地震・風水害等全般 | 自然災害・感染症(BCPは感染症編も別途あり) |
避難訓練とBCP訓練は関連づけて実施すると効率的ですが、記録は別々に残すのが安全です(どちらの義務を満たした実施なのかが記録から読み取れるようにしておく)。
放デイ固有の論点
- 下校時間帯の受け入れ: 学校からの引き取り・送迎バスでの移動中に災害が発生した場合の対応(送迎ルート上の危険箇所、保護者・学校への連絡手順)は、指定通所支援基準にも消防法令にも直接の規定がなく、自事業所で個別に検討・計画に落とし込む必要があります。
- 複合施設の場合の収容人員通算: 児童発達支援センターと併設している場合など、建物全体で用途が複合する場合は防火管理者の選任基準(収容人員)の数え方が変わることがあります。所轄消防署への確認が必須です。
- 避難支援の個別配慮: 障害特性に応じた避難支援(車いす利用者の避難経路、聴覚・視覚障害への情報伝達、行動障害がある利用児への声かけ)は、消防法令・指定通所支援基準のいずれにも具体的な手法の指定はありません。個別支援計画や安全計画(第40条の2)と連動させて、利用児ごとの避難支援方法を事前に決めておくことが実務上重要です。
年間計画モデルとチェックリスト
| 月 | 実施内容 |
|---|---|
| 4月 | 消防計画の見直し・防火管理者の再確認/避難訓練①(事前に消防機関へ通報) |
| 9月 | 風水害を想定した訓練(送迎中止基準・保護者連絡の確認) |
| 10月 | 避難訓練②(地震想定・事前通報) |
| 該当施設のみ | 避難確保計画に基づく訓練の実施・市町村長への結果報告(時期は市町村の求めに応じる) |
| 3月 | 消防計画・避難確保計画(該当施設)の見直し |
- □ 消防計画(消防法施行規則第3条)を策定し、所轄消防署へ届け出ている
- □ 防火管理者を選任している(収容人員30人以上等、該当する場合)
- □ 消火訓練・避難訓練を年2回以上実施し、事前に消防機関へ通報している(防火管理者選任事業所)
- □ 訓練実施にあたり、地域住民の参加が得られるよう連携に努めている
- □ 自事業所がハザードマップ上の浸水想定区域・土砂災害警戒区域に該当するか確認した
- □ 該当する場合、避難確保計画を作成し市町村長へ報告している
- □ 該当する場合、計画に基づく訓練を実施し結果を市町村長へ報告している
- □ 下校時間帯・送迎中の災害対応(連絡手順・送迎中止基準)を計画に反映している
- □ 利用児ごとの避難支援方法(個別配慮)を関係書類と整合させている
- □ BCP(自然災害編)の訓練と一体実施する場合も、記録は別々に残している
出典一覧(すべて2026年8月11日参照)
- e-Gov法令検索・法令API「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号) 第40条、第40条の2、第71条 https://laws.e-gov.go.jp/law/424M60000100015
- こども家庭庁「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」新旧対照表(平成24年3月30日障発0330第12号、最終改正 令和6年3月29日こ支障第94号) — (30)非常災害対策 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/253aba4f-3ce0-4aa1-a777-3d42440f1ca2/0ff3d1f9/20240412_policies_shougaijishien_shisaku_hoshukaitei_53.pdf
- e-Gov法令検索・法令API「消防法施行令」(昭和36年政令第37号) 別表第一(六)項ハ、第1条の2第3項 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- e-Gov法令検索・法令API「消防法施行規則」(昭和36年自治省令第6号) 第3条第10項・第11項 https://laws.e-gov.go.jp/law/336M50000008006
- e-Gov法令検索・法令API「水防法」(昭和24年法律第193号) 第15条の3(要配慮者利用施設の避難確保計画) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000193
- e-Gov法令検索・法令API「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号) 第8条の2(要配慮者利用施設の避難確保計画) https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000057
免責
- 本記事は放課後等デイサービス事業者向けの一般的な情報提供です。防火管理者の選任要否、複合用途建物の収容人員の数え方、避難確保計画の要否は個別の建物・立地により異なります。必ず所轄消防署・市町村の防災担当部署に確認してください。
- 本記事に記載した条番号・回数は、2026年8月11日時点でe-Gov法令API・こども家庭庁の公表資料から確認したものです。一次情報で確認できなかった事項(罰則の有無、避難確保計画の一体化の可否等)は本文中に明記しています。制度は改正されるため、実務適用前に必ず原典で再確認してください。
- 本記事および当社の提供物は、消防設備士・行政書士等の独占業務の代行ではありません。実地指導・消防検査の結果を保証するものではありません。
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